「サイバーパンク・ドラッグ・オーバードーズド」
- 白鳥健次『Blood Electric』レビュー -
桜井夕也

21世紀。超大量消費社会、メガ高度情報化社会、ヒト=ゲノム解析の社会、臓器移植の社会。この時代のイコンは誰だ?AD2002のキリスト、新たなる「奇跡を行う者」は?
19世紀には「神を殺した」ニーチェがポップ・カルトなイコンだった。
20世紀はとりわけカリスマが多い。60年代のバロウズ、80年代のギブスン、90年代のカート・コバーン……。

じゃあ現代の偶像、メガ資本主義時代のアイドル、現在に未来のエッジを幻視させるカリスマは誰だ?
そう問われたらこう答えざるをえないだろう。それは白鳥健次だ、と。

白鳥健次は電脳空間と黙示録とを「錬金術的に融合」させることで、我々に来るべき変化=災厄を待ち構えている現在を乗り越えさせつつ、大量消費社会と高度情報化社会の無意識と欲望を暴露する。
それはデジタルなヴードゥーの呪い=カットアップ=リミックスであり、サイバーなトランスを引き起こし、社会にテクノ=死な革命をもたらす。

彼の詩には生体改変、ゲノム、電脳空間、ドラッグと言った悪夢のようなイメージが混在しているが、それらのガジェットは21世紀のアウトサイダー文学にとってふさわしいものであり、むしろ必然的であったとさえ言える。そう、彼はアウトサイダーだ。それも社会全体の意識全体を変成させることのできるほど巨大な……。

この本に対する態度を決定することで我々の運命は決まる。
エデンかソドムか。祝福された者か楽園を追放された者か。サイボーグか肉体の牢獄か。
どちらにしろこの本、「Blood Electric」は人類全体の記憶に(歴史とは言わない。歴史は死んだ)風化されずに刻まれることは間違いない。

俺達は過去には留まれない。未来の、さらにその先へと辿りつけるかどうかは俺達次第だ。さあ、エッジを求めよう。それはこの本の中にある……。


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